貧血・多血症
貧血・多血症
体中に酸素を運ぶ役割をになう赤血球の数が少なくなった状態のことです。一般的に、酸素と直接くっつくことができる「ヘモグロビン」の数値で判定します。男性で13g/dL未満、女性で12g/dL未満となったら貧血と診断します。貧血の原因としては鉄欠乏が有名ですが、それ以外にもビタミンB12や、葉酸、亜鉛などの材料が不足している場合、腎臓が悪い場合、赤血球が壊されてしまう場合、赤血球が作れなくなってしまう場合、血液の腫瘍の場合、などがあります。
鉄欠乏性貧血は鉄不足が原因でおこる貧血です。日本の成人女性の約1割がこの病気であるといわれています。原因としては、月経や子宮筋腫などの婦人科疾患による出血が最も多く、がんや潰瘍、炎症などによる消化管からの出血、偏食、特に極端な菜食主義による鉄分の摂取不足、激しい運動による鉄喪失などがあります。特に、中年以降の男性では、胃がんや大腸がんが原因となっている可能性が高いので、胃や大腸の精査が必要です。また、食品に含まれるグルテンでアレルギー性腸炎をおこし、鉄の吸収が阻害されるセリアック病も原因の1つです。貧血以外にも骨粗鬆症など様々な症状・病態を合併します。この疾患は日本人には少ないですが、難治性の鉄欠乏性貧血の患者さんの中に紛れていることがあります。鉄剤を飲んでいるのに貧血が良くならない方はご相談ください。症状は、体動時の動悸、息切れ、立ちくらみ、頭重感、集中力の低下、全身倦怠感などがありますが、多くの場合、無症状です。鉄欠乏を放っておくと、スプーンのように爪が変形したり、食道の粘膜の萎縮が起きてものが飲み込みにくくなったりします。このような状態をプランマー・ヴィンソン症候群といいます。治療は、第一に鉄欠乏の原因を治すこと、第二に内服または静脈注射で鉄分を補うことです。鉄剤の内服が苦手とおっしゃる方はご相談ください。
胃がんなどで胃全摘をした患者さんによくみられる貧血です。胃がんの手術をしてから5年程度経て発症します。胃全摘以外に、萎縮性胃炎や極端な菜食主義、小腸(回腸)の切除によってもおこります。症状は、動悸、息切れ、立ちくらみ、全身倦怠感といった貧血症状や手足のしびれ、舌のしびれや痛み、味覚障害が特徴です。ビタミンB12の欠乏により貧血のみならず食欲不振や元気が出ない、白髪など全身的な症状が出てきます。鉄欠乏性貧血と違ってほとんどの患者さんに自覚症状があります。治療は不足したビタミンB12の内服ないし静脈注射です。鉄欠乏を合併することもあるので鉄剤の内服もすることがあります。
細菌やウイルスなどの病原体が体内に侵入すると、抗体とよばれるタンパクが病原体にくっついて破壊し、排除する免疫反応がおこります。このような抗体による免疫反応が赤血球に対しておこると、赤血球が破壊され貧血をおこします。体内で赤血球が破壊されることを溶血とよびます。急に溶血がおこると動悸、息切れ、めまい、立ちくらみ、全身倦怠感といった貧血症状が現れます。貧血の進行するスピードに体が対応できず、心臓に負担がかかるため、高齢者や心臓病のある方の場合、命取りになることがあります。溶血がおこることで、血液中のビリルビンが増加します。これによって、白眼や皮膚が黄色くなる黄疸が出ます。原因として悪性リンパ腫や膠原病が隠れていることがあり、診断時にはそのスクリーニングが必要です。治療は、免疫抑制薬、主に、副腎皮質ステロイドを使います。重度の貧血に対して、輸血を行うこともありますが、赤血球に対する抗体がある場合には、輸血の効果は乏しく、溶血による副作用も強く出る可能性があります。
全ての血液細胞のもとになる細胞、造血幹細胞が減少することで、白血球、特に好中球、赤血球、血小板が減少する病気です。造血幹細胞が減少する原因は、成人では、免疫細胞の攻撃による自己免疫的機序によると考えられています。好中球が減少することで発熱します。また、肺炎や敗血症(血液の中で細菌が増える状態)といった重症感染症をおこします。赤血球の減少により体動時の動悸、息切れ、疲れやすさ、頭重感などの貧血症状が現れ、血小板の減少により皮膚に点状の赤紫色の斑点が多発します。また、鼻出血、歯肉出血、生理が長引いたり出血量が増えたりするなどの出血症状が出てきます。軽症であればたんぱく同化ステロイドの内服、中等症であれば免疫抑制療法、重症であれば免疫抑制療法と顆粒球増殖因子、トロンボポエチン受容体作動薬(血小板造血を促すホルモンの類似物質)の併用や造血幹細胞移植を行います。
多血症とは、血液中の赤血球数が異常に増加する病気です。赤血球は、酸素を体中に運ぶ役割を担っています。多血症になると、血液がドロドロになり、流れが悪くなります。血栓症や神経症状、掻痒感や脾腫が現れることもあります。血栓症のリスクが高くなるために適切な管理が必要です。
脱水状態などで血液が濃くなる場合は相対的多血症と呼ばれ、通常一時的です。適切な水分の補充を行うことで解決します。
診断には遺伝子検査に加えて骨髄検査が必要になります(通常の採血で二次性多血症の可能性が高ければ不要です)。造血幹細胞(血液の元となるタネにあたる細胞のこと)に遺伝子の異常が起こることで発症します。血栓のリスクが高くなるために、瀉血(クリニックで定期的に血を捨てる)や抗血小板薬の内服が必要です。また、60歳以上の方は特にリスクが高くなるために、細胞減少療法と言って血液細胞を減らす内服薬が必要とされています。さらに、真性多血症は血液が作れなくなる状態である骨髄線維症や、急にがん化してしまう(急性白血病)への進展リスクがあることが知られています。近年、副作用の軽いインターフェロン製剤が開発されて、これらのリスクを減らし、予後が改善されることが報告されています。
喫煙による肺の障害、睡眠時無呼吸症候群などで酸素の低い状態が続いたりすると、それを補うための生理的機構が働いて赤血球が多くなります。原因の治療はもちろんですが、一定程度に赤血球が多くなると(血液が濃くなると)、血栓症のリスクが高くなることが報告されています。また、他にも原因は多々知られていますが、近年、糖尿病や心不全のお薬による副作用で二次性多血症を呈する患者さんが増えてきました。患者さんにとっては大切なお薬ですので、多血の程度やその薬剤の必要性に応じて治療を検討していくことになります。